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絶望の眼鏡でものごとを見る——Emma Cline, "What Can You Do with a General"

 Emma Cline の “What Can You Do with a General” を The New Yorker のオンライン版で読んだ。クリスマスイブの前日、裕福な暮らしを送る夫婦、 John と Linda のもとに子供たちが帰ってくる。三十代だがまだ母親に精神的に頼っている Sam、無給のインターンをしており、夫妻に家賃を払ってもらっている末っ子 Chloe。精神的に不安定でセラピストのところに通っているらしい Sasha である。
The New Yorker [US] February 4 2019 (単号)

The New Yorker [US] February 4 2019 (単号)

 

  この短編は John から見た家族の昔と今の話だ。John はいわば絶望の眼鏡をかけて世界を見ている人で、その目から見た些細でいて不快なものごとの描写がこれでもかとつづく。例えば故障して食べかすが食器につく食洗機。例えばペースメーカーをつけて生きながらえている犬の震え。そのうち多くのことは家族、とくに娘のひとり Sasha に関わることだ。食事中にも彼氏との電話をやめないこと。クリスマスプレゼントを喜ばないこと。犬のおもらしを途中までしか始末せず放置すること。Sasha のことがほかのふたりの子供以上に心に引っかかるらしい父親 John は、彼女とふたりで車で外出することになるのだが——。

 John は家族のことは嫌っているわけではなく、むしろ愛している。しかしその理由は苦いものだ。家族「だった」この人々とのあいだには今や「ベール」がかかり、ぼんやりとした存在になってしまったからこそ、愛することさえできるのだ。そう John は考える。よかった頃のことはときどき頭をよぎり、彼は時としてその思い出にすがろうとする。John はとくべつ悪い父親というわけでもなければ、とくべつ不幸というわけでもない。ただきっと、立て直し方を見失ってしまっただけなのだ。
 Emma Cline は 1989年生まれの作家。最初の長編 The Girls(2016年)は1960年代から70年代にかけて実在したチャールズ・マンソンらのカルト集団を題材にしており、邦訳もされている(『ザ・ガールズ』堀江里美 訳,早川書房,2017年)。 
The Girls: A Novel (English Edition)

The Girls: A Novel (English Edition)

 
ザ・ガールズ

ザ・ガールズ

 

Emma Cline. "What Can You Do with a General." The New Yorker, 4 Feb. 2019.