本を高く積め

本をつい買ってしまう人の雑記です。

2019-01-01から1年間の記事一覧

絶望の眼鏡でものごとを見る——Emma Cline, "What Can You Do with a General"

Emma Cline の “What Can You Do with a General” を The New Yorker のオンライン版で読んだ。クリスマスイブの前日、裕福な暮らしを送る夫婦、 John と Linda のもとに子供たちが帰ってくる。三十代だがまだ母親に精神的に頼っている Sam、無給のインター…

ハードルの高い寓話――Haruki Murakami, “Cream”

村上春樹の “Cream” の英訳を newyorker.com で読んだ。訳者は Philip Gabriel、原典は『文學界』2018年7月号掲載の「クリーム」のようだが、こちらにはまだ当たれていない。 文學界2018年7月号 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2018/06/07 メディア: 雑…

悪夢的な酩酊感——Salvatore Scibona, "Do Not Stop"

Salvatore Scivona の “Do Not Stop” を The New Yorker(Web)で読んだ。海兵隊員でティーンエイジャーの Vollie は、沖縄の基地からベトナム戦争に派兵され、輸送車を運転する任務につく。あるとき彼の立ち寄ったケサンの基地が、北ベトナム軍の襲撃にあう…

死んだ「偉大な父」をめぐる葛藤――Taymour Soomr, "Philosophy of the Foot"

The New Yorker に載った Taymour Soomro の "Pholosophy of the Foot" を読んだ。この作者が発表する初めての作品だ。パキスタンのカラチに母親と住んでいる男 Amer。死んだ父が遺してくれるはずだった邸宅がおじの手に渡ってしまい、母子ふたりはアパート…

いけすかなくも病的な語り―― Amos Oz, "All Rivers"

イスラエルの作家アモス・オズ(Amos Oz)の "All Rivers" を The New Yorker で読んだ。1963年の作品で、ヘブライ語からの翻訳で、訳者は Philip Simpson。語り手の青年 Eliezer は28歳の予備役兵。趣味の切手収集の用件で偶然訪れたテルアビブで、5歳年上…

情感と空白――高山羽根子『オブジェクタム』

高山羽根子『オブジェクタム』(朝日新聞出版)を読んだ。 オブジェクタム 作者: 高山羽根子 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2018/08/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (3件) を見る 表題作「オブジェクタム」の主人公である少年は、街のあ…