本を高く積め

本をつい買ってしまう人の雑記です。

短い感想

若松英輔『本を読めなくなった人のための読書論』

本を読めなくなった人のための読書論 作者:若松 英輔 亜紀書房 Amazon 今の自分のために書かれたかのようなタイトルが気になって、若松英輔『本を読めなくなった人のための読書論』を手に取った。 量とスピードにこだわらない。無理に読もうとせず、出会いを…

水野英莉『ただ波に乗る Just Surf サーフィンのエスノグラフィー』(晃洋書房,2020年)

水野英莉『ただ波に乗る Just Surf サーフィンのエスノグラフィー』を読んだ。 ただ波に乗る Just Surf―サーフィンのエスノグラフィー 作者:水野 英莉 発売日: 2020/04/03 メディア: 単行本(ソフトカバー) 著者が大学院生時代に始めたサーフィンにまつわる…

【ネタバレ】パワーズ『オーバーストーリー』を読んだメモ

リチャード・パワーズの『オーバーストーリー』を読みながら取ったメモを置いておこうと思う。 オーバーストーリー 作者:リチャード パワーズ 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2019/10/30 メディア: 単行本 ごくまれに自分の感想や気になった書いてあるけれ…

ハードルの高い寓話――Haruki Murakami, “Cream”

村上春樹の “Cream” の英訳を newyorker.com で読んだ。訳者は Philip Gabriel、原典は『文學界』2018年7月号掲載の「クリーム」のようだが、こちらにはまだ当たれていない。 文學界2018年7月号 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2018/06/07 メディア: 雑…

悪夢的な酩酊感——Salvatore Scibona, "Do Not Stop"

Salvatore Scivona の “Do Not Stop” を The New Yorker(Web)で読んだ。海兵隊員でティーンエイジャーの Vollie は、沖縄の基地からベトナム戦争に派兵され、輸送車を運転する任務につく。あるとき彼の立ち寄ったケサンの基地が、北ベトナム軍の襲撃にあう…

死んだ「偉大な父」をめぐる葛藤――Taymour Soomr, "Philosophy of the Foot"

The New Yorker に載った Taymour Soomro の "Pholosophy of the Foot" を読んだ。この作者が発表する初めての作品だ。パキスタンのカラチに母親と住んでいる男 Amer。死んだ父が遺してくれるはずだった邸宅がおじの手に渡ってしまい、母子ふたりはアパート…

いけすかなくも病的な語り―― Amos Oz, "All Rivers"

イスラエルの作家アモス・オズ(Amos Oz)の "All Rivers" を The New Yorker で読んだ。1963年の作品で、ヘブライ語からの翻訳で、訳者は Philip Simpson。語り手の青年 Eliezer は28歳の予備役兵。趣味の切手収集の用件で偶然訪れたテルアビブで、5歳年上…

情感と空白――高山羽根子『オブジェクタム』

高山羽根子『オブジェクタム』(朝日新聞出版)を読んだ。 オブジェクタム 作者: 高山羽根子 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2018/08/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (3件) を見る 表題作「オブジェクタム」の主人公である少年は、街のあ…

意外とリーダブルなちょいパラノイア小説――リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』

リチャード・パワーズの『舞踏会へ向かう三人の農夫』を読んだ。最近、河出文庫で復刊されたが、読んだのは前に刊行されたみすず書房版だ。 舞踏会へ向かう三人の農夫 上 (河出文庫) 作者: リチャード・パワーズ,柴田元幸 出版社/メーカー: 河出書房新社 発…

強烈な意地にとらわれた男の非-贖罪行為――J・M・クッツェー『恥辱』

J・M・クッツェー『恥辱』を読んだ。 大学で文学を教える独身、離婚歴ありのデイヴィッド・ラウリーは、教え子に手を出して大学を追われ、田舎で小さな農園を営む娘のもとに身を寄せる。いままでの価値観とはまったくそぐわない生活に戸惑いつつも、近隣の動…

柴崎友香『千の扉』~語り手の個性がじわり

柴崎友香『千の扉』を読んだ。 義父が団地の部屋を空けることになり、夫の一俊とともにその部屋に越してきた千歳は、義父である勝男から、団地に住んでいるはずの古い知人を探すよう頼まれる。喫茶店でのアルバイト、突然に結婚を申し込んできた夫との関係、…