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水野英莉『ただ波に乗る Just Surf サーフィンのエスノグラフィー』(晃洋書房,2020年)

 水野英莉『ただ波に乗る Just Surf サーフィンのエスノグラフィー』を読んだ。
ただ波に乗る Just Surf―サーフィンのエスノグラフィー

ただ波に乗る Just Surf―サーフィンのエスノグラフィー

  • 作者:水野 英莉
  • 発売日: 2020/04/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
 著者が大学院生時代に始めたサーフィンにまつわる自身の体験や、所属していたコミュニティについて、オートエスノグラフィーおよびフェミニストエスノグラフィーと呼ばれるスタイルで論じている。著者が出入りしていたサーフショップでの経験に多くのページを割いていて、コミュニティーにおけるジェンダー規範や、女性サーファーが直面する問題を扱っている。
 サーファーでもなく社会学の素地のない自分にも面白く読むことができた。先行研究への言及からは、サーフィンという文化現象が学問のフィールドでどのように扱われてきたかを垣間見られる。また、男性中心のコミュニティにおけるセクシズムや、そこで女性が受ける扱いを描いた部分には、胃がきりきりするような思いがした。自信が属していたコミュニティーについて、恩恵や素晴らしい思い出を認めつつも、かなり批判的に踏み込んだ内容になっており、その勇気に驚かされる。
 著者は最終章で、開かれた国際学会や、女性を中心としてオーガナイズされたイベントへの参加経験に触れ、「多様性を尊重し、自然と平和を愛し、心が動く経験を共有すること、友情をはぐくむことを喜びとする人たち」の存在を称揚しているが、それが旧来のコミュニティの変化でなく、あくまで新たなコミュニティの発見・創造であることは、既存のコミュニティの変化しにくさを物語っているようにも感じた。といっても筆者の視野を借りてサーフィンの世界の一端を覗き見ているにすぎない自分の、単純にすぎる想像かもしれないけれど。