本を高く積め

本をつい買ってしまう人の雑記です。

2017-01-01から1年間の記事一覧

タフガイの可愛げと暴力の遅延―― Joseph O'Neill "The Sinking of the Houston"

Joseph O'Neill の "The Sinking of the Houston" を The New Yorkerで読んだ。ニューヨークに住む語り手は三人の息子の子育てに追われ、心の休まる暇もない日々を過ごしている。そんなある日、十五歳の次男がブルックリンに向かう電車で強盗に遭い、財布と…

鮮烈だがつかみどころのない話――Thomas McGuane "Riddle"

Thomas McGuaneの "Riddle" をThe New Yorkerで読んだ。 モンタナ州の町リヴィングストンで建築家をしている語り手がある晩、酒を飲んだ後、車で帰宅していると、人気のない道ばたで男が興奮した女をなだめているのに出くわす。女は男が赤ん坊を車の窓から放…

悪夢の即物性――Anne Enright. "The Hotel"

Anne Enrightの "The Hotel" を雑誌The Ner Yorkerで読んだ。乗り継ぎの空港で足止めを喰らった主人公は、翌早朝までの数時間を過ごせるホテルを探して、知らない空港の中をひたすら歩く。外へ通じるガラスのドアの向こうにあるものは、ホテルかもしれないが…

町田康「狭虫と芳信」『たべるのがおそい』vol.4

町田康「狭虫と芳信」を読んだ。 西崎憲 編『文学ムック たべるのがおそい』vol.4(2017年10月)に掲載されている。 文学ムック たべるのがおそい vol.4 作者: 木下古栗,古谷田奈月,町田康,宮内悠介,澤田瞳子,谷崎由依,山崎まどか,山田航,辻山良雄,都甲幸治,…

佐藤正午『月の満ち欠け』(岩波書店、2017年)

青森県八戸市出身の小山内堅〔おさないつよし〕は上京後に大学で知り合った女性と三十歳手前で結婚。生まれた娘を「瑠璃」と名付ける。「まずまず順調」な人生を送る小山内だったが、やがて大きな不幸にみまわれる。妻と、十八歳になった娘とを交通事故で同…

カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』

2017年のノーベル文学賞をカズオ・イシグロが受賞したので、『忘れられた巨人』が出た当時に書いた文章を上げておく。 忘れられた巨人 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,土屋政雄 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2015/05/01 メディア: 単行本 この商…

Curtis Sittenfeld, "Show Don't Tell”

大学院で創作を学ぶルーシーは、奨学金の選考結果が郵便で届くのを待っている。大勢いるプログラム受講生のだれが通知を受け取るのか気が気でないまま、「カルト的な崇拝者がいる男」の講演会の後、パーティーに出かける。パーティーの時間は、元恋人と顔を…

Sherman Alexie, "Clean, Cleaner, Cleanest"

マリーはあるモーテルで清掃係として働きながら、夫と二人、つましく暮らしている。クリスチャンだが柔軟な心を持つ彼女は、客の残していく汚物や、数々のトラブルにも動じることなく、淡々と部屋をきれいにし続ける。いろいろな理由でやめていった同僚、パ…

The New Yorker の短編を読む

ちょっとした出来心で The New Yorker の定期購読を始めたので、そこに載っている短編小説をレポートしていきたいと思う。別に電子版だっていいのだけれど、自分の性格上、紙で持っておかないともれなく読んでいくというのは難しいのだ。日本にも意外に安く…