本を高く積め

本をつい買ってしまう人の雑記です。

書評

つらさと身勝手とヘミングウェイ——アキール・シャルマ『ファミリー・ライフ』(小野正嗣 訳)

一九七〇年代の終わり頃、『ファミリー・ライフ』の主人公である八歳の少年アジェは、インドのデリーから一家で米国へ移り住む。兄は猛勉強の末、入学を希望する理科高校の試験に見事合格。だが喜びもつかの間、事故で脳に損傷を受け、意思の疎通もままなら…

評価されづらい作家の突出した名作——シャーウッド・アンダーソン『ワインズバーグ、オハイオ』(上岡伸雄 訳)

シャーウッド・アンダーソン『ワインズバーグ、オハイオ』の新訳が新潮文庫から出た。一九一九年に刊行されたこの作品は二十二の物語からなる連作短編で、新潮文庫の旧訳(橋本福夫訳)、講談社文芸文庫の小島信夫・浜本武雄訳など、これまでに何度も邦訳が…

問題をかかえた中年についての小説ーーC・J・チューダー『白墨人形』(中谷友紀子 訳)

増殖する「白墨人形」 1986年、イングランドの小さな町アンダーベリーの森で、頭部のない少女のバラバラ死体が発見される。町に住む12歳の少年エドと仲間たちは思わぬ形でこの事件と関わりをもつことになる。30年後、同じ町で教師をしているエドに、過去の事…

痛快娯楽なだけじゃない——エルモア・レナード『オンブレ』(村上春樹訳)

村上春樹のレナード愛 エルモア・レナードの「オンブレ」はメキシコにほど近いアメリカ南西部を舞台にしたウェスタン小説。語り手であり手記の書き手である《私》ことカール・アレンは、「男〔オンブレ〕」という異名をもつ謎めいた人物ジョン・ラッセルと同…

ジェフ・ヴァンダミア『全滅領域』(酒井昭伸 訳)~孤独なヒロインの異世界彷徨

ジェフ・ヴァンダミアの『全滅領域』(酒井昭伸 訳,ハヤカワ文庫,2014年)が映画化されていて、Netflixで見られることに気づいた。監督は『エクス・マキナ』なアレックス・ガーランド。 www.netflix.com 原作は読んだ当初けっこう気に入った。そういう割に…

佐藤正午『月の満ち欠け』(岩波書店、2017年)

青森県八戸市出身の小山内堅〔おさないつよし〕は上京後に大学で知り合った女性と三十歳手前で結婚。生まれた娘を「瑠璃」と名付ける。「まずまず順調」な人生を送る小山内だったが、やがて大きな不幸にみまわれる。妻と、十八歳になった娘とを交通事故で同…

カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』

2017年のノーベル文学賞をカズオ・イシグロが受賞したので、『忘れられた巨人』が出た当時に書いた文章を上げておく。 忘れられた巨人 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,土屋政雄 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2015/05/01 メディア: 単行本 この商…